美容家電のヒットメーカーが語る、蓄積型イノベーションとは。

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累計850万台(2017年6月末時点 日本国内販売)の販売台数を誇る大ヒット商品、Panasonic Beautyの『ナノケアドライヤー』そのヒットの裏側には、一人の女性の存在があった。それが、清藤美里氏だ。同氏は『ナノケアドライヤー』以外にも、多くのヒット商品を世に出し、イノベーションを起こし続けている。その背景にある、彼女なりの思考法を紐解いていく。

常識を変えた、
「ルージュ・ピンク」

Panasonic Beautyの代表商品『ナノケアドライヤー』特長のひとつは、マイナスイオンの約1,000倍※1以上(体積比)の水分を含む微粒子イオン「ナノイー」が毛髪に浸透することで、うるおいを与え、しっとりと髪がまとまる使用感。ただ「乾かす」だけではなく髪の「ケア」ができるドライヤーとして、美容に関心のある女性の心をつかみ、大ヒットしている。
※1 一般的な空気イオン(代表的な粒子径:1.3 ㎚)と 「ナノイー」(代表的な粒子径:13 ㎚)との比較による。(パナソニック調べ)

また、外観にも大きな特徴がある。CMなどで、特徴的な鮮やかなピンクのドライヤーをみた記憶がある人も多いのではないだろうか。実は、『ナノケアドライヤー』が大ヒットとなった要因のひとつに、あの特徴的なカラー「ルージュ・ピンク」の存在があった。

「もちろん、機能はとことんこだわっています。しかし、それだけでなくデザインも家電が売れるためには大切な要素。カラーバリエーションひとつとっても、売れ行きが大きく変わります」ナノケアドライヤー商品企画責任者の清藤氏はこう語る。

「日本は、まだ店頭で家電を買う人が多いです。でもドライヤー売り場に足を運ぶと、何十台もドライヤーが並んでいます。そんな中で、無難に売れそうな色が並んでいたところで、絶対目につきません」彼女は、これまでのやり方ではダメだと考えた。

「そのとき、“売れなくてもいいから、目に留まり、足を止めて頂ける色をつくりましょう”と提案しました。定石通りに行くのであれば、ゴールド調やホワイトなど好みが分かれにくい色が採用されることが多いです」しかし、清藤は多くの商品の中で存在感を出すためには、アイキャッチになる色が必要だと感じていた。

「ひとつの色が起点になれば、商品全体が総合的に売れるはず。それで、売り場でもすぐ目につき、なおかつ女性の印象にも残りやすい鮮明なピンクを提案したのです」

しかし、工場で塗装のラインを確保する以上、一色でも売れない色が出てしまってはものづくりの効率性が落ちてしまう。そして売れない色を作ることへの減販リスクも相まって、案の定、社内からは反対の声が出た。

企画を通すための、
シナリオライティング。

「本当に売れるのか? もし売れなかったら、責任とれるのか? など、いろんなことを言われました。でも、企画の責任者である私が、ぶれ始めてしまうと絶対に売れる商品なんてできない。企画者である以上、一回決めたなら最後まで信念を突き通さないといけません」

そこから、彼女は社内を説得するために、どうしたらいいかを考えた。「男性の経営幹部に対して、感情論で戦っても意味がありません。時に、女性は自分の感性に走りがちな部分があります。しかし、企画を通すためにはそうではなく、もっと論理的に数字での説明が必要だと考えました」

清藤氏は、どんなカラーがターゲットとなる層の購買意欲に繋がるのか、ターゲットユーザーの購買行動の中で、いかにカラーが大事か、など片っ端からデータを集めて周囲を説き伏せた。

「それだけでなく、大企業で新しい企画を動かす以上、多くの関係者が関わります。それぞれの部署や担当者の利害関係を見極めて、提案することも欠かせません」誰かが激しく異論を唱える時は、その人が何か困っていたり、誰かに何か言われていたり、何かを求めたりしている時だ。

「その人が、何を考えているのかを見極めるために、自分が関係ない会議にも出席をして、それぞれの部署の利害を理解し、各部門のキーパーソンがいつもどんな質問をしているのか、徹底的に傾向をつかみました」

キーパーソンになる上司や決裁者の行動を分析する。そうすることで、利害関係者を企画に巻き込むシナリオを描いていく。その中でも、特に彼女が大事にしている考え方がある。

「シナリオや戦略はとても大事な要素です。でも、それを本当に実現させるためには、時間はかかるかもしれませんが、直接顔を見る機会を多く持ち、人とぶつかり、意見を言い合えるような関係性を作る。結局は、これに尽きるんじゃないかを思います」

不満そうな人がいれば、顔を見て、その人がどこに不満を持っているのか、しっかり話し合って合意形成をする。「それを続けていけば、必ず相手も向き合ってくれるようになると思います」

社内の人間関係を深く洞察し、泥臭く足を使って、周囲を巻き込んできた結果、あの特徴的な"ルージュ・ピンク"がナノケアドライヤーのコンセプトカラーとして採用された。今や、Panasonic Beautyの看板商品として、あらゆる販促物やCMでピンクのドライヤーが使用されている。

好きなことの蓄積が、
イノベーションに繋がっていた。

彼女は前述の『ナノケアドライヤー』以外にも、自宅で高品質なヘッドスパ体験ができる美容家電『頭皮エステ』や、駅ナカパウダールームサロン『CLUXTA(クリュスタ)』など、様々な商品や企画を世の中に送り出してきた。なぜ彼女は、これまでにない革新的な商品を生み出し続けられるのだろうか。清藤氏は、これまでの自身キャリアを振り返ってこう語る。

「ヒットを生むための攻略法があるわけではありません。意図的にイノベーションを起こそうと、考えているわけでもありません。でも、せっかく企画に関わっているなら、当たり前のものをつくっても、つまらないじゃないですか。自分がプロフェッショナルとして、そこにいる意味として、誰もやらないこと、私にしかできないことをお客様に寄り添ってやりたいと思っています」

清藤氏は、美容家電の商品企画に関わる前、携帯デバイスのBtoB営業を担当していた。「ものをつくって売る、というプロセスは企画も営業も同じです。携帯デバイスのBtoB営業をしていた時も、ただ部品を紹介するだけじゃ意味がないと思っていました」メーカーの担当者も、必ず自分たちの商品を良くしたいと思っているはずだ。

「だからこそ、彼らがどの方向に行きたいのかを考えて、一緒にそこに辿り着くためにはどうしたらいいかを考えました」そのために、デバイスではなく、携帯電話のあるべき姿を周囲のあらゆる人にヒアリングをしたり、競合他社をベンチマークしたり、他のデバイス開発に関する知識を勉強したりして、彼女にしかできない提案を考え抜いた。

当時、デバイス営業の立場からでそこまでクライアントの完成商品に首を突っ込んで考える人なんてほとんどいなかった。「後から振り返ってみると、それも小さなイノベーションだったのかもしれません。でも、私は純粋に楽しいと思った事をやり続けていただけなんです」

そんな想いを持ちながら毎日ガムシャラに働くうちに、だんだん彼女の中で引き出しや経験が増えていった。「しいて言うなら、『蓄積型イノベーション』とでも言うのかな。好きなことをやりつづけて、少しずつ蓄積されていった経験、成功、失敗がベストプラクティスとなり、感覚が磨かれ、新しい商品や企画に繋がっているのだと思います」

日本人に、
誇りを取り戻す。

清藤氏は、今後の展望をこう語る。「これからは、日本の良さをもっと世界に広げたいと思っています。私は、幼少期をフランスで過ごした経験があります。だからこそ、日本の良さが浮き彫りになって見えるんです」

しかし昨今、日本のメーカーの国際的な競争力は、徐々に落ちているとも言われている。「日本にしかない、いいところが必ずあると思っています。一概には言えませんが、コスト力やスピード感では、海外に負けるかもしれません。でも、日本ならではの繊細なものづくりや、使用した後の満足感の追求は、世界でもトップレベルだ、と自信を持って言えます」

「それなのに、海外に出た時に、前のように『最新技術は日本から』、『~といえば日本』という言葉をあまり聞かなくなったのがとても悔しんです。もっと我々日本人が日本人であることに誇りを持ちながら、臆することなく、グローバルで活躍するにはどうしたら良いのだろう? といつも考えています」

さらに清藤氏はこう続ける。「日本企業がもっと世界市場において結果を出せば、日本人はもっと誇りを持てるようになると信じています。だからこそ、私はパナソニックを海外で成功させたい。そしてパナソニックのブランド価値を上げる事で、優秀なグローバル人材が集まり、我々がその人材と交じり合う機会が増えれば、もっと日本のビジネスパーソンが競争力を持つことに繋がる。そのために、世界的にずっと使われ、憧れられ、愛される商品をつくりたいと思っています」

清藤 美里(Misato Kiyofuji)
パナソニック株式会社 アプライアンス社
ビューティ・リビング事業部 商品企画グループ
スタイラ・アイロン商品企画チーム 課長
1977年生まれ。2000年松下電器産業株式会社(当時)入社。携帯電話用デバイスのBtoB営業を経験したのち、社内公募制度で2004年松下電工株式会社(当時)に転籍。ビューティ商品企画を担当し、Panasonic Beautyの代表商品『ナノケアドライヤー』、や「頭皮エステ」、駅ナカパウダールームサロン「CLUXTA(クリュスタ)」などの商品企画や販促戦略の立案に関わる。現在はPanasonic Beautyに加え、「衣類アイロン」カテゴリーのグローバル事業戦略~商品戦略立案、アジア拠点の商品企画メンバー育成を担当。2013年APEC若手女性イノベーター賞を受賞。
公式サイト:http://panasonic.jp/hair/nanocare/
TEXT BY 新谷建人(株式会社パラドックス)
PHOTOGRAPHY BY 今井裕治